地域社会学、人類学、地域研究。
学部生のときは経済学部でした。大学院に入って地域研究を始めました。経済学はミクロ・マクロの教科書を読むとそれなりにおもしろかった。ですが、ケーススタディやエリアスタディをみると、ちょっと物足りなかった。
たとえばミクロ経済学は個人の効用の最大化という、シンプルに人間の行為を説明するようなモデルをつくった。モデルってのは、単純で汎用性が高く、いろんなものを説明できるほうがえらい。でも、事例研究をみてみれば、経済的な側面だけでは決まらない、社会とか文化とかいろんな要因で人間の行為は方向付けられていくでしょ。モデルを精緻化するという方向よりも、現実世界のいろいろを学ぶほうに惹かれたということでしょう。
あとは、学部のときのゼミ(世界経済論、佐々木隆生先生)が、経済学だけでなく、人類学とか歴史社会学とかの本も読む、ちょっと変わったゼミだったんです。ゲルナーのNation and Nationalism(『民族とナショナリズム』)とか、アンダーソンのImagined Communities(『想像の共同体』)とか、ふつうは経済学部で読まないようなものを、英語で必死に読んだ。
それから…あまり単位のこととかまじめに考えない(要するに勉強しない)学生だったのですが、自分の学部の講義はサボって法学部政治学科の政治学史とか、農学部農業経済学科の農村社会論とか経済発展論とか、他学部の講義をいくつかおもしろがって受けた。何が勉強したいのかなんてわかんないでしょ、学部時代に。たまたま自分にとって刺激のある講義とか、ゼミの先生が紹介した本とかが、自分にとっておもしろそうだと思った場合にそっち方向にいく。行き当たりばったりというか。総合大学にいるとそういうことができるんだから、弘前大学にいるみなさんもいろいろやってみるといいと思う。
2014−15年度の社会調査実習では、杉山先生と担当させていただき、学部2、3年生のメンバーのみなさんと青森県の小規模農業ビジネス(A-SAB)の調査をやっています。学部生のみなさんは現地に行って直売所の品揃え、店内の商品配置、出荷時のようすや出荷者への個別インタビューなど熱心にやってきて、そうやって集めて来たデータをみながらあれこれ話し合って、また現地調査というかんじです。私自身、直売所のことは知らなかったので、とても勉強になっています。
また、直売所調査は私自身の関心であるルーラル・ツーリズム研究ともつながっています。観光には外から来る人(ゲスト)とその土地の人(ホスト)がいますよね。私が関心のあるのはホスト側のコミュニティの動きで、自分たちのローカルな特色、自分たちがやっているローカルな活動をどういう風に外とのコミュニケーションを経てイメージしなおしていくか、という点。
私にとってのおもしろさは、ルーラル・ツーリズムみたいなものが動き始めると、いろんなふうにホスト側の社会が変わっていく。いまは地域おこしといえば観光というように、必ずつながってくる。その是非はともかく、観光ってやっぱり自分たちが持っているものを売り物にしないといけない。ルーラル・ツーリズムは、わざわざ名物や売り物をつくらなくてもできる観光なんだけど、何らかのコンセプトとか対応できる体制とかつくらないといけない。観光研究の一種だけど観光とちょっと違うっていうあたりもおもしろい。
根井集落は青森県三沢市にある40−50世帯の集落。三沢の町から根井まで車で30分くらい。根井から三沢市の町に出ていった人たちもいるけど、根井にすぐ帰ってこられる。青森県の集落活性化事業の調査で2014年夏に学部生12人とお邪魔して、いろいろとお話を聞いたのがはじまり。小学校区というコミュニティ再生産の社会単位の重要さなどいろいろ学んでいます。いまはおもに、子育て期の若い世代の方々がどういう考えなのかという点に徐々に迫っていこうとしています。小さい集落と地方都市三沢との関係、三沢に住んでいる人はどのくらいの頻度で帰っているのか、東京に出た人はどうか、などこれから分かったらいいなと思っています。
下北北通では、大間町と風間浦村を中心に、大間高校の卒業生のみなさんにインタビュー調査をしています(羽渕先生との共同調査です)。この高校を卒業した人たちは、一度地元を出た人も帰ってくる人が多い。しかし、それも世代によってちがいがある。2014年9月には、40歳前後の役所や消防署勤めの方を中心に8人ほどインタビューをさせていただいた。多くはいったん地元を出て東京や関東圏に就職した人たち。なぜその就職先だったのか、東京でのくらしはどうだったか、帰ってきたきっかけは何かなど、いろいろお聞きした。いまの20歳代の方々は世の中の経済状況も地元の状況もちがって、上京就職やUターンについての意識も変わってくる。そのあたりも調べてみたいと思っています。
弘前大学の北溟寮、北鷹寮、朋寮もそうですが、古くからある大学の学寮には学生の自主的な活動の伝統が存在しています。寮行事など特別なイベントもありますが、寮生どうしの日常生活のなかにも、いろいろ独特なやり方がある。そうした「寮生活」がどういうふうに意識的に維持されてきたか、寮舎の中のスペースをどういうふうに使ってきたのか、というところを中心に調べようと思っています。今のところは、札幌にある大学の学寮について、その寮が所蔵している1980年代後半の文書による調査をすすめています。
人間はさまざまな空間を、その活動履歴が書き込まれた〈場所〉に変えてきました。この調査を通して考えたいことは、第1に、凝集性の高い人間集団、とくに生活をともにする集団がその共同性を創出・維持しようとするときに、どのように場所作りをしていくかということ、第2に、そうした場所が、「創出された共同性ゆえに、その共同性にとっての他者を生み出し、公共性を損ねていく」というありうる失敗をどのように回避できるのか(あるいは、「」内の提題自体が誤りであるか)、ということです。
毎年ゼミ生と話し合って決めようと思います。2015年度は、3・4年生合同でゼミをやります。3年生は地域社会学のいくつかのテーマ(トピック、理論)を勉強して、実際に調査して書かれた論文を読んでいく。4年生は(卒業研究指導の時間とは別に)自分の卒論の調査がある程度まとまってきたらゼミで発表する。そこでこれからの調査の進め方とか調査のやり方や方法など具体的なアドバイスをするようにします。
2014年度からゼミを始めたばかりで、まだ卒業生はいない。現在の4年生は、サッカー地域リーグサポートチームの人間関係、SNS疲れ、店舗利用客の空間意識、方言伝承活動、剣道部員の道具愛、大学生の趣味と消費生活などのトピックで調査にとりかかっている。
先生がおもしろい、学生が真面目。これがあってはじめてこのコースの最大の売りである「集団指導体制による社会調査実習」が成り立っています。この実習を通して、本格的にフィールドワークを学べますし、この実習経験がなければ、自分で調査して一つの卒論を書くということはかなり高いハードルとなるでしょう。地域のことがわかるし取材力がつくので、公務員になりたい人やジャーナリズム方面に行きたい人はいいんじゃないかと思います。
知力、体力、忍耐力がつきます。後悔はさせません。
ありがとうございました。
専攻 | 地域社会学,人類学 |
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出身地 | 福岡県北九州市 |
行ったことのある国 | ウガンダ、ケニア、タンザニア、エチオピア、ザンビア、マラウイ、ジンバブエ、南アフリカ、ロシア、アルゼンチン、インド、ベトナム、ラオス、オーストラリア |
その中で好きな国 | 強いて言えばケニア。学部生の時に旅行で行ったし、3年間駐在員として働いた。首都のナイロビは思ったより都会で、思ったより暑くない。 |
趣味 | 散歩 |
休日の過ごし方 | 散歩 |