「ローマ時代の文化を理解するために必要なことを勉強します。歴史というと古代人の書いた歴史書をひもとくことを考えるでしょう。 しかし、モノを観察することによって得られる知識もあります。それは書かれた知識とはまた別の側面から歴史を教えてくれます。 ローマ人はどんな間取りの家に住んだか。どういう筆記用具を使い、子供のころ何を勉強したか。 お風呂に入る習慣はどうして生まれ、なくなったか。どんなお墓に入ったか。 モノには古代人ひとりひとりの生活や願いや苦しみや楽しみ、価値観が刻まれていて、歴史を実感することが出来ます。」
「ローマ時代を前半の古典古代的なシステムの機能した時代と後半の別のシステムに変化した古代末期に分け、 それぞれの時代の都市・建築・美術・交易・墓制・碑文など十数項目について対比させて、解説します。」
「美術史実習では美術作品の基礎的な観察と記述の方法を身につけます。形態文化論では、西洋古代美術作品を理解するため、ギリシア神話や聖書の図像、材料や技法、時代や地域の様式などの勉強をします。ゼミナールで本格的な研究方法を身につけ、卒論を書き上げます。」
「いいえ。学生本人が決めます。自分自身が興味を持ったことを卒論のテーマに出来ます。
昨年度はポンペイの壁画、西アジアの円形都市、クノッソス宮殿、ダマスカスの大モスクなど、どれもユニークなテーマで面白い内容でした。
このようにゼミナールでは学生ひとりひとりの個性を大事にしています。お互いの意見を十分理解し合えるよう、
各自の意見をきちんと伝えるための発表の技術を身につけます。良く聞いて(読んで)理解することを徹底しています。
また、必要に応じて、ラテン語やイタリア語などの手ほどきを行います。」
(写真1)
「3~4世紀のローマの地下墓地である、カタコンベの壁画(写真1)です。 キリスト教の時代になっても、聖書の絵に混じって、異教神話の主題が描かれています。 ローマ人は伝統をとても大事にしていたようです。また、自らの職業に関する絵を描きこんでいて、 とても誇りに思っていたことがわかります。必ずしもキリスト教一色に塗りつぶされていたわけではなく、 むしろ古典古代的な価値観を維持していたと考えた方が良さそうです。古代から中世への歴史の転換点の痕跡があらわれていて興味深いです。」
「今までイタリア、ヨルダン、レバノンの世界遺産ティール郊外の墓地などの発掘に携わり、 その他北アフリカのリビアやチュニジアなど20シーズン以上海外調査に参加しました。」
(写真2)
「ヨルダンの砂漠の都市ウム・エラサース(古代名カストロン・メファ)のビザンティン聖堂を発掘していたとき、
ライオンの姿や都市図を描いた素晴らしい床モザイクが次々と出てきました(写真2)。また、私一人で掘っていたとき、
サファイティクという古い言語の碑文の刻まれた石が聖堂外壁に再利用されているのを見つけることもできました。
また、イタリアのタルクィニアの別荘発掘では、地面から三葉型の平面図の建物が浮かび上がり、わくわくしました。
タルクィニアで出土したローマ時代のランプと全く同じ型で作ったランプが北アフリカのリビアの博物館に陳列してあって、
ローマ時代の盛んな地中海交易に納得が行きました。
レバノンのお墓からは、ギリシア語で呪いの言葉の書かれた鉛の板が出てきました。呪いは、宗教の祈祷や裁判の告訴
と同じような形式を取っています。おどろおどろしい呪文で呼び出された神々の中にイエス・キリストも入っていて、当時の宗教事情が垣間見えました。」
「美術館学芸員など文化財関係の仕事についた人もいます。また古代建築を卒論のテーマに選んで、土木機械の会社に就職した人もいます。
比較的公務員が多いですが、外国のことを勉強するので、JALなど運輸やホテルなど観光業、地歴や英語などの教員など職種は様々です。
大学院に進んで研究者になる道もあります。
モノを見る確かな目とコミュニケーション能力を鍛え、西洋古代に関する知識を蓄えて、卒論を書き上げたわけですから、
業種を問わず社会で活躍する実力は十分ではないでしょうか。」
「純粋な好奇心からです。実際に役に立つわけじゃないと思います。でも過去について知らなければ、先に進むことも出来ないのではないかと思います。 また知らないことはもったいないことです。ポンペイの壁画展を見てとても楽しむことができました。 もっと勉強すれば、より楽しいのではないかと思います。今は建築に興味を持っています。」
「もちろん高卒でも有能な人材であり得ます。ただ大学では、物事を単に覚えるのではなく、どうしてそのような現象が起きたのか、背景を探り、事象間の関係を分析します。また、根拠を提示して筋道を立てて考え、自分にも他人にも納得できるよう提示して行くやり方も学びます。何が良いのか、人の言うなりでなく、論理的に自立的に考えるのです。大学の教育の中でそういう勉強の仕方を自然に学ぶことができるのだと思います。」
「ナイル川の風景を描いた床モザイクを研究しています。理解するためには、ローマ史やローマ美術だけでなく、
ギリシアやエジプトやメソポタミアの歴史・美術・建築・神話など、広い視野が求められます。勉強していると本当に世界が広がります。
うつわの大きい人になれそうです(笑)。またモノだけでなく、ギリシア語やラテン語で書かれた古代の文献も読まなくてはなりません。ありとあらゆる知識が必要です。
アフガニスタン展を面白く見学しました。特にアレクサンドリア製のガラス器は現在の研究テーマと関連が深かったです。」
「私は考古学実習を取りましたが、そこで学んだ分類の方法やモノを見る客観的な方法はどんな仕事についても実際の役に立つと思います。
今のローマ美術に関する研究で身についたのは、視野を広く持って物事を見る態度と、たいていのモノや美術のデザインなどの起源や
出所が透けて見えるようになったことではないかと思います。近代の作品でも古代作品を基にして制作されている事も多いのです。
仏教美術の起源のガンダーラもヘレニズムの影響を受けているくらいです。」