弘前大学人文社会科学部
文化創生課程 文化資源学コース


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ゼミ・研究室紹介

日本考古学研究室/上條 信彦(教授)

日本考古学とは

下台遺跡の発掘調査

 考古学は過去の人の生活や文化、社会を主に地中に埋まっているものから明らかにしていく学問です。地中に埋まっているものを掘り出し、どこから、どのような状態で発見されたかを記録していく作業を発掘調査といいます。また発掘によって出てきた過去の人々が地面に残した痕跡を「遺構」、発掘されたものを「遺物」と呼んでいます。

ゼミナールで学べること

中山遺跡の発掘調査

 一見、ミステリアスな遺跡や遺物を対象にしますので、ロマンを感じる学問です。しかし、モノに秘められている文化を理解するとなると、何も語らない「モノ」ですから、我々がモノに語りかけなくてはなりません。学問の現場は、ひたすらモノとことばの間で格闘しています。このモノに語りかける技術を学ぶことができるのが、本ゼミナールの醍醐味なのです。日本考古学ゼミナールでは、本物の遺跡や遺物を観察することで、そのモノを使っていた人達の姿やそれを生み出した時代背景を解明していきます。
 そのためには、多様な方法があるのも考古学の特徴です。発掘はもちろん、理化学的な分析や実験、古文書・絵図の読解、民具との比較なども行います。当の私も縄文時代の食料を研究していますので、実際に野山にドングリ拾いに行ったり、殻を剥いて土器で煮てみたりして遺跡から出てきたものとの比較を行っています。また、トチなどの堅果類を利用している民俗調査も行います。考古学は、幅広い分析によって新たな見解が得られるだけでなく、それを通じたグローバルな視野が得られるのも特徴です。実際、土偶や石棒の卒業研究を書いた学生が卒業後、海外の大学院で精神文化や文化遺産をテーマに活躍している人がいます。
 もうひとつの日本考古学ゼミナールの醍醐味は文化財を通して、文化財の価値を知り、文化「財」の保護・育成する能力を養うことができることです。日本考古学ゼミナールの特色は、実習調査や研修旅行を通じて、学生一人一人が、文化財に直接触れ、調査や研究ができる点です。ゼミには、実習室や分析室があり、土器や石器といった具体的なものに触れ、対象に即した調査方法や研究方法を学びます。特に、測量、実測、撮影、保存処理など自然科学的分析を含めた多彩な調査法は、文理にとらわれない総合学問としての文化財のあり方を学ぶことができます。

ゼミの1年

遺構の記録 土器の接合

 学部学生は人間文化課程2年生の時に各実習を受講し、3年次にゼミナールを選択します。ゼミは、ひとつのチームです。発掘や整理などのフィールド調査を成功させるためには、チームワークが最も重要です。
4月:花見(新入生歓迎会)が開催されることもあり、先輩後輩と交流します。ゼミナールの授業は演習型式ですので、ゼミナール生自らが報告書や論文を読解し、実際に報告書の執筆などを学びます。
実習では、構内で測量について学ぶほか、研究室にある土器や石器の実測方法を学びます。
夏~秋:これまで培ったノウハウを生かし、いよいよフィールドや発掘に出かけます。OBや国内外の専門家などが加わり、賑やかになります。発掘は普段とは違う環境で発掘調査という共通の目的のもとで集団生活を送ります。発掘に関する実践的な技術を磨くことができるだけでなく、チームワークのなかでの、忍耐力や協同力、プロジェクトの推進力が鍛えられます。これらの経験は社会に出た後を考えても重要なトレーニングとなります。4年生や院生のなかにはさらに自らフィールドを開拓し、国内外へ調査しに出かけます。
秋:数多くの研究会・学会が開かれますので、学生はその運営を行います。また北日本考古学研究センターの特別展にあわせて自らが発掘した資料を陳列したり、パネルなどを作成したり運営にも関わります。実習は調査した資料の洗浄や注記(ラベリング)、土器の拓本、実測図の作成を行いつつ、写真撮影、トレース(鉛筆で書いた実測図にイラストレータなどのグラフィックソフトを使って線をなぞることで、研究資料用の図を完成させること)、版組へと移っていきます。
 巡検として埋蔵文化財調査を行っている機関や博物館に出かけ、実際に文化財を扱っている職業の実際と、埋蔵文化財保護業務の実践や課題について学びます。この頃には多くの実習室には夜でも明かりが灯り、冬を感じながら卒業研究や発掘調査報告書を仕上げていきます。
 このように、発掘から資料の整理、図化、報告書の執筆、版組までの一連の作業のほか、展示や運営などの埋蔵文化財の活用面までを実践的に学ぶことのできる大学はほとんどなく、全国的に注目されています。

これまでの発掘調査

石器の実測 北日本考古学研究センターでの展示

 外ヶ浜町今津遺跡(2004年)、三戸町杉沢遺跡(2007年)、むつ市不備無遺跡(2009年)、秋田県五城目町中山遺跡(2012年)を発掘調査しています。地図を見るとお分かりのように、津軽半島、馬淵川流域、下北半島、八郎潟沿岸というように、それぞれの地域の環境に適した生活や文化を戦略的に解明しております。
 こうした研究の一端は、日本考古学協会(2016年本学開催)、日本文化財科学会(2012年本学開催)、日本植生史学会(2011年本学開催)、SEAA(東アジア考古学会議)、世界考古学会議といった全国、世界規模の学会で発表されています。もちろん、学生皆さんの名前で発表されることもあり、学生皆さんの成果は、学界においても貢献しています。
 ゼミを巣立った学生の進路も、研究テーマが多彩であるのと同様、様々です。学んだ技術を生かして、博物館学芸員や自治体の文化財専門職(教育委員会)なるOBもいれば、さらに研鑽を積んで大学の教員になる人もいます。さらにモノを観察する視点は、世界共通ですし、現在にも応用できます。タイやヨーロッパ各国に留学して現地で活躍するOB、モノの観察眼が認められ警察の鑑識に配属されたOBもいます。文化財は必ずしも貴重なものでばかりではなく、ヒトの日常についてモノを通じて学ぶ学問です。したがって研究をするうちに「自分をとりまく社会とは、」をいう問いにもつながっていきます。多彩な研究環境を持った本コースで学んだことが、将来生かされることを期待しています。
詳細は本ゼミHP(http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kamijo/)にて。

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