弘前大学人文社会科学部
文化創生課程 多文化共生コース


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ゼミ・研究室紹介

英語学研究室/木村 宣美(教授)

自然科学としての言語学

・英語学の基本的な考え方
 自然科学としての言語学 (Chomsky, Noam. 1957. Syntactic Structures. The Hague: Mouton. チョムスキー著 福井直樹・辻子美保子訳 2014年 統辞構造論 付『言語理論の論理構造』序論 岩波文庫) は,言語現象を十分に観察・記述し,その言語に潜む規則性を見つけ出すことを目的としています。すなわち,単にことばの資料を集めて,それを分類するということに終始するのではなく,様々な現象を説明するための仮説をたて,その仮説が正しいかどうか,具体的な言語現象と照らしあわせながら,検証する作業が行われます。このような英語学の作業は,様々な言語現象を有限個の規則や原理に還元しようとする試みであり,物理学などの自然科学と同じような考え方に基づき,言語研究がなされています。見かけは複雑な現象であっても,実際は比較的単純な原理に支配されていて,その原理を突き詰めれば,一見無関係に思える複数の現象がすべて統一的に,そして単純に説明することができることがあるという考え方が背後にあります。


・人間言語の説明原理を探求する生成文法理論
 自然科学としての言語学を志向する生成文法 (Generative Grammar) は,Chomsky (1957) において示された考え方です。生成文法では,人間は,無限の文を作り出すことができ,また,文法的な文と文法的でない文とを区別する能力を持っています。従って,脳の一部としてある文法は,すべての文法的な文を作り出し,文がどのような構造をしているかを説明できると同時に,文法的でない文を排除することのできるものでなければならないと考えられています。人間には,生まれつき人間言語であればどの言語でも獲得することのできる能力が備わっています。従って,人間言語には一定の共通性があることになります。この共通性は,生成文法では,普遍文法 (Universal Grammar: UG) という形で捉えようとしています。


・幼児の言語獲得の特性を反映した文法理論
 幼児の言語獲得には,刺激の貧困 (poverty of stimulus) という特徴があります。子供の周りでやりとりされる言葉は不完全で貧弱なものです。言い間違いによる非文,言いよどみ,尻切れの文,破格文などが数多く含まれているはずです。誤文であるとのレッテルがはられているわけでもないのに,正しい文とそうではない文を区別する能力を我々は獲得します。言語の獲得は均一的になされ,生育時の環境等に左右されることはありません。短期間で,例えば,4,5才までには言葉は獲得されます。これまでに聞いたことのない文であっても自由に作り,そして聞いて理解することができるという,言語を創造的に使用する能力を獲得します。このことから,様々な現象が存在するほどには言語構造・体系は複雑なものではないはずであると考えられています。様々な言語現象の背後には有限個の規則や原理が存在し,幼児が短期間のうちに言語を獲得できる程度に単純なものであるはずです。

研究課題:2種類の助動詞倒置文の基底構造と派生メカニズムの解明

 Minimalist Program (MP)では,普遍文法 (UG) において,移動や削除等の規則の適用,音韻解釈と意味解釈のための統語(形式)情報の転送 (transfer) は,語(句)から成るまとまり,フェイズ (phase) であるvPやCPに基づき,行われると仮定されています。研究課題『2種類の助動詞倒置文の基底構造と派生メカニズムの解明』(令和2年度-令和4年度)では,仮説「Be の非定形である being は動詞で,been は助動詞で,be は文脈に応じて,動詞あるいは助動詞の時がある。」を仮定するフェイズ理論の枠組みで,2種類の助動詞倒置文(①主語と助動詞の倒置が関わる倒置文と②複数の助動詞が関わる倒置文)の基底構造 (underlying structure) と派生 (derivation) メカニズムに対する従来の分析の妥当性を批判的に検証し,異なる基底構造と派生メカニズムに基づく分析を提案することにあります。この研究内容は,具体的には,右方移動構文(there存在文,文体的倒置文,as挿入節,so倒置文,比較倒置文)を分析対象とし,その内部構造と派生メカニズムに関する検証と精緻化を行うことです。

3・4年次セミナールの目的及び内容

・3・4年次ゼミナールの目的
 英文法書や学術論文等の読解及び発表や質疑応答を通じて,1) 読解力の向上を図る,2) 英語学の基礎を学ぶ,3) 課題発見・解決型の汎用的能力を育むことを目的としています。具体的には,英語学ゼミナールでの活動を通じて,(A) 言語研究の方法論(問題点の指摘,批判の仕方,議論の方法,言語資料の扱い方,ハンドアウト・レポートの書き方等)を身につける,(B) 1) 参考文献を集める,2) 参考文献を正確に読む,3) 構造と意味を意識して,考察を加える,4) 研究成果を口頭で発表する,5) 研究成果をレポートにまとめることができるようになることを目指しています。


・3・4年次ゼミナールの内容
 1) 英語学(英文法・語法を含む。)に関連する英文法書や学術論文を,構造を意識しながら読み,読解力の向上を図るとともに,英語学の基礎を学びます。2) 発表や質疑応答を通じて,課題発見・解決型の汎用的能力を育みます。3) 3年次ゼミナールと4年次ゼミナールは合同で実施されます。前期は,講読(英文法書や学術論文等)及び4年生の発表(卒業研究),後期は,講読(英文法書や学術論文等)及び3・4年生の発表が行われます。

卒業研究の題目

 人文社会科学部文化創生課程多文化共生コース(木村ゼミナール)に所属する学生の卒業研究(令和元年度-令和2年度卒業)の題目は,以下の通りです。英語の様々な言語現象が研究の対象になっていることがわかります。(題目が英語で表現されている卒業研究は英語で執筆された卒業研究です。)
 The Future Expressions in English,接触節について,英語の現在完了形について,話題化構文の分類とその用法,日本語母語話者における英語学習-日本語と英語の構造等と照らし合わせながら-,2次元ランドマーク上での前置詞選択,メタファーと理解に関する認知言語学的研究-気象に関するメタファーに基づく分析-,視点と言語表現に関する日英対照研究,可能性を表わすcanとmayについて,前置詞at, in, onにおける日本人英語学習者とネイティブスピーカーの用例についての比較・分析

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