弘前大学人文社会科学部
文化創生課程 多文化共生コース


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ゼミ・研究室紹介

ヨーロッパ地域学研究室/永本哲也(講師)

ヨーロッパという地域について学ぶ意義

 研究室名が「ヨーロッパ地域学」となっているように、私が研究しているのはドイツを中心とするヨーロッパという地域です。特に今から500年くらい前のキリスト教の歴史に注目しています。私は、「地域基礎論」と「ヨーロッパ地域学」という授業を受け持っていますが、前者はドイツの政治制度、後者はキリスト教文化を古代・中世から現代まで追いかけるということで、私の研究と関わりがあるテーマを扱っています。
 では、大昔のヨーロッパの制度や文化を学ぶ面白さや意味はどのようなものでしょうか?答えはたくさんあると思いますが、ここでは二点挙げてみます。
 一つ目は、過去と現代を結びつけて考えることです。日本であれヨーロッパであれ、現代の社会や文化は、長い時間をかけて形作られてきたものです。過去に生きていた無数の人々が行った行為、そしてそれによって引きおこされた無数の出来事の結果が現在です。そのため、現在について知るためには、過去を知る必要があります。どちらの授業も、過去に起こった出来事が現在につながっていく過程を追いかけているので、授業を通じて現在と過去の結びつきを感じられるのではないかと思います。
 二つ目は、異文化の異質さや理解しにくさを味わうことです。これらの授業では、ドイツというヨーロッパの国の政治制度、キリスト教文化の歴史を概観します。このような、日本から遠く離れた地域の、遠い昔の制度や文化に馴染みがある方は少ないことでしょう。違和感を感じたり、理解できないと思う人もいるかもしれません。しかし、異文化に触れたときに、理解できなかったり、違和感を感じるのはの当然のことです。しかし、分からないものをすぐに自分の物差しに当てはめて分かった気になるのではなく、さしあたり価値判断を保留しながら理解しようとするという姿勢が、異文化理解でとても大切だと思っています。私の授業が、みなさんに分からなさや違和感を噛みしめる機会を提供できれば幸いです。

近世ヨーロッパの研究

 私が専門に研究しているのは、近世ヨーロッパの歴史です。近世という時代は、中世と近代の間、16世紀から18世紀までの約300年のことを指しますが、私が主に扱っている時代は、近世が始まったばかりの16世紀、宗教改革の時代です。宗教改革は、ヨーロッパのキリスト教教会や社会を改革しようという巨大な宗教運動でした。マルティン・ルターやジャン・カルヴァンのような高名な神学者以外にも、無数の人たちが、宗教的情熱に燃え、宗教改革に参加していました。
 再洗礼派と呼ばれる人たちもその一部です。彼らは、ヨーロッパ中で異端・反乱者と見なされたため、大半の場所で迫害され、その多くは最終的にヨーロッパを離れ、南北アメリカ大陸に渡りました。この宗教的マイノリティである再洗礼派が、私の主な研究対象です。(再洗礼派について詳しく知りたい方は、新教出版社から2017年に刊行された『旅する教会 再洗礼派と宗教改革』という本をお読み下さい。)
 私が現在中心的に進めているのが、再洗礼派の宣教の研究です。1530年代半ば、ドイツ北西部からネーデルラントにかけて、再洗礼派が急激に勢力を伸ばしました。彼らの多くは、もうすぐ世界が終わり、不信仰者に天罰が下ると信じていたのですが、現在私は、何故多くの人たちが、そう信じたのかを調べています。そのためには、再洗礼派たちがどうやって、自分たちの考えを広めていったのか、つまり宣教していたのかを知る必要があります。
 再洗礼派自身の宣教方法を知るために私が読んでいるのが、審問記録です。再洗礼派は世俗権力による取り締まりの対象でしたので、役人に見つかると逮捕されました。当局が、逮捕された再洗礼派に色々と質問したときに作られたのが審問記録です。再洗礼派の声をそのまま記録した文書ではないので利用には注意が必要ですが、把握するのが難しい普通の人たちの考えや草の根の宣教活動について知ることができる貴重な史料なので、審問記録を読むことで再洗礼派の信仰や活動について、もっと詳しく解明しようと思っています。

ゼミナールについて

 ゼミでは、ヨーロッパの歴史や文化を、学術的な文献の読解を通じて学んでいきます。人文系の研究の基本は文献を読むことですが、実はきちんと学術論文や学術書を読みこなすのは、かなり大変です。そのため、実際に学術的な文献を読みながら、読解の訓練をしていきます。文献を読んだ後は、それを自分なりに理解して、口頭でプレゼンテーションしたり、レポートとしてまとめることが必要になります。ゼミでは、ゼミ生の方々の関心に従いテーマを選んでいただき、実際に報告やレポートを通じて、自分なりに論を立て、他の人に伝える機会を作ります。
 文献を読むのも、報告するのも、レポートを書くのも苦手で、余り自信がないという方も多いと思います。しかし、最初は上手くできないのは当たり前です。バスケットボールを始めたばかりの時はシュートがなかなか入りませんし、ピアノの初心者は楽譜通りに弾けません。研究も同じです。でも、スポーツや楽器と同じように慣れないうちは難しいですが、練習すれば着実に上達します。正しい練習の仕方はゼミで学ぶことができますので、時に失敗しながらゼミで練習を続けて下さい。そうすれば、卒業論文を書き終える頃には、いつの間にか研究するために必要な力が一通り身についているはずです。

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