日本で生活する私達にとって、アメリカ合衆国はどんな国でしょうか?私達の日常生活にはアメリカ発のポップ・カルチャーがあふれているだけでなく、政治・経済・軍事大国であるアメリカの行動は、日本の政治にも無視できない影響力を持っています。他方、多様な人種や民族の人々が住み、移民の国とも呼ばれるアメリカは、移民や難民の受け入れ数の少ない日本社会とはかなり異なる社会に見えるかもしれません。現代アメリカ論研究室では、日本に生活する私たちにとって身近であると同時に遠い国でもあるアメリカを学んでいきます。
アメリカといえば、自由や平等という理念を掲げ、追求する国というイメージが強いかもしれません。私が担当する地域基礎論の授業に参加する学生たちは、そのような理念とは裏腹に、アメリカの歴史が実際には絶え間ない暴力と排除に満ちていることに驚いたといいます。アメリカという国の理想と現実のギャップがどこから生じたのかを歴史的に理解するとともに、暴力や排除に直面しながらも、互いの差異を乗り越えて自由や平等という理想の実現を諦めなかった人たちの軌跡こそアメリカ史である、ということも学んでほしいと思っています。
アメリカ合衆国を知るためのアプローチは様々にありますが、私は人種とジェンダー・セクシュアリティに特に関心を持っています。具体的には、アメリカと日本による沖縄の植民地支配と軍事占領の歴史を研究しています。アメリカ合衆国は北米の先住民の人たちから奪った土地の上に建国され、20世紀には北米大陸を超えてフィリピンやハワイを植民地化することで海外帝国となりました。現在でも、アメリカは沖縄を含む世界各地に基地を置き、グローバルな軍事基地ネットワークを維持しています。いかにアメリカ帝国が軍事力と暴力を通じた支配を正当化してきたのか?日本はそこでどんな役割を果たしたのか?圧倒的な軍事力をもつ米軍と相対した沖縄の人々、特に沖縄の女性たちがどのように軍事支配を生き延び、変えようとしてきたのか?といった問いを、人種やジェンダー・セクシュアリティの視点から考えようとしています。
私が担当するアメリカ・オセアニア地域学Aの授業では、人種、ジェンダー・セクシュアリティをキーワードとして、アメリカの歴史を辿ります。たとえば、北米大陸で奴隷制度を拡大するために黒人女性の生殖能力や身体が搾取されたこと、またアメリカの排他的な移民法成立の背景にアジア系女性に対する差別的な偏見があったことなどを見ていきます。高校までに世界史の授業で習うアメリカの歴史とはかなり異なるストーリーに戸惑うかもしれません。しかし、これらの歴史を踏まえてようやく、現代アメリカ社会を揺るがす#Black Lives Matterや#Me too運動などが何を問題にしているのかを理解することができます。
現代アメリカ論研究室では、アメリカ合衆国の政治や社会、文化について皆さんと学んでいきます。文献の読解とディスカッションすることを通じてアメリカ合衆国についての理解を深めつつ、資料の読み方や分析の仕方を学び、批判的思考力やコミュニケーション能力を高めることを目指します。そして、アメリカについて学ぶことで得た知を、自分の周りの社会を理解するために応用できるようになることが目標です。