調査地:弘前市、黒石市、五所川原市、大館市など
古民家に訪れたときにわたしたちが感じる「なつかしさ」「居心地のよさ」「古いもののたたずまい」などについて、説明可能な観点を設定して、それにしたがって質的に記述する調査をおこないました。グループ調査とメンバーごとの個別調査をおこないました。
古民家の空間の質を記述するという難問に、段階を踏んで挑戦しました。まず、web上で具体的な古民家に関する画像つきの記事をさがし、レビューをおこないました。これと並行して、民家や質感を記述する基礎的な枠組みを学ぶため、古典である今和次郎『日本の民家』[原著1922]、谷崎潤一郎『陰翳礼賛』[原著1939]の概要を把握し、次いでグループ・個人で古民家訪問の実地調査をおこないました。こうして見出されたアプローチは、いわゆる歴史考証的な解説とは異なる、体験に依拠した独自の観点からの空間記述でした。
近年、古民家の価値は見直されており、各地に古い民家を改造したカフェ、改修した旅館や商家が注目されています。津軽地域もその例外ではないでしょう。リノベーションをほどこされて感じのよい空間にしたカフェ、コワーキングスペース、雑貨店などはそこに立ち入り、滞在する人々に居心地のよい場所を提供しています。それらは従来に和風だとかレトロ、あるいは民藝趣味と言われていたものとはどこか異なる空間です。こうした、近年注目されている新しい趣味(taste)を、自分たちの観点から記述していくことだけでなく、旅館や商家などのリノベーションの経緯を関係者に聞き取り、人びとのその空間に込めた意味を理解していきました。