調査地:弘前市
2023年9月に津軽塗職人(塗師)の父娘を題材にした映画『バカ塗りの娘』が公開されることを機に、映画の題材となった津軽塗の技術継承と、その背景にある塗師の年齢層の二極化という課題について調べました。
現在、津軽塗を担う塗師の世代は、60歳を超える熟練塗師たちと、20代~40代の若手塗師たちに大きく分かれています。熟練塗師と若手塗師は、それぞれどのような経験やプロセスを経て技術を習得し、自身の塗師としてのスタイルを模索したり、確立したりしているのでしょうか。また、世代の隔たりは技術継承にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。この実習では、熟練塗師と若手塗師それぞれ3人、計6人の協力を得て、工房などでの観察と聞き取り調査を実施し、塗師の生活史から津軽塗の技術継承について考察しました。
ひとくちに塗師といっても、津軽塗の世界への入り方や目指す職人像は一人ひとり異なり、それは同世代の塗師にもあてはまることが明らかになりました。また、たんに技術を習い覚える先に、同じ作業をひたむきに繰り返すことでのみたどり着ける迅速で正確な技術の高みが示される一方で、分野や素材の垣根をこえた交流と創意工夫の先に生まれる唯一無二あるいは一期一会の表現の広がりも示されました。一見すると相反する方向性をどちらも内包することは、津軽塗を特徴づける「研ぎ出し変わり塗」の技法ならではの、懐の深さであるとともに、少量化・差別化という消費者の需要や欲求の変化に対応しうる現代的な可能性も秘めていると指摘できます。