弘前大学人文社会科学部
社会経営課程 経済法律コース


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実習紹介

経済学コース特設講義「自治体政策研究」紹介

 「自治体政策研究」は、地方自治体の政策をグループワーク形式で主体的に学ぶ科目です。自治体の政策担当者に現実の問題提起をしてもらい、学生が学習を通じてそれにこたえる形式をとります。問題の原因を探りつつ理想を追求する中で、学生は解決策を模索します。最後に政策担当者に向けた発表も行います。
 いわば、「自治体で実施される事業を、学生が仮想体験的に構築して提案する」授業です。目的は、地域の課題を主体的に研究する基礎を築くことです。また、青森県、弘前市における先人の活動の「意義」と「難しさ」を理解することも目指します。

 末尾に学生の提案スライドを抜粋して紹介しています。講義に参加した学生の(基礎段階での)到達点を示していますので、ぜひご覧ください。

第1テーマ(弘前市の「婚活推進事業」について:第1回~第4回)

このテーマでは、弘前市の人口減少対策担当職員を招きました。

○ 基調講義

 弘前市でも人口が大幅に減少する見込みであるため、現在、以前より踏み込んだ対策を行っていること、その一つが「ひろさき出愛サポートセンター」の仕組みである、と説明されました。これは、市が運営する無料婚活サポートセンターです。その上で、実際の婚活の場では男女とも「条件ありき(年齢、収入額など)」の人が多く、出会ってもなかなか結婚に結びつかないという課題が示されました。

○ 学生の取組

 学生は、出会いが結婚につながる取組を模索しました。なぜ結婚する(しない)のかを経済学的に考察し、解決策を考えてゆきました。
 既婚女性のアンケート調査を手がかりに、「似たもの同士(共通の趣味、話題、価値観をもつ男女)」の結婚が多いことに着目し、結婚につながる取組を提案していました。

(学生発表スライドから)

第2テーマ(青森県の「20代を変える『生き方ナビ』事業」について:第5回~第7回)

このテーマでは、青森県の「20代を変える『生き方ナビ』事業」担当職員を招きました。

○ 基調講義

 県庁では現在、「若者が地方にとどまるには」を重要な政策課題としていること、その答えは「雇用創出」と「若者の意識向上」の両面であると考えていることが説明されました。その上で青森県が実施する「@ぼくらし」事業が紹介されました。青森県の若者が「ぼくらしい」暮らし方を探るためのイベント・セミナー事業です。

○ 学生の取組

 学生は、若者が将来の生き方を考える取組を模索しました。学生には「近くて遠い」テーマであり、難しかったようです。
 主に「@ぼくらし」事業を高校・大学の授業に組み込む可能性を検討していました。いきなり「生き方」といわれても「引かれて」しまうので、はじめはゆるく、段階を追って生き方を考える案を模索していました。
 議論の中で、若者にとって地域の大人から評価してもらえることがうれしく、地方にとどまる重要な要因になるのではないか、という仮説が出てきました。弘大生らしいユニークな仮説です。ぜひ今後検証してください。

(学生発表スライドから)

第3テーマ(青森県の「青森ブランド事業」について:第8回~第11回)

このテーマでは、青森県の「青森ブランド事業」担当職員を招きました。

○ 基調講義

 地域ブランドの現状を、「最強ブランド」である北海道と対比させて説明されていました。(ちなみに青森ブランドも、全国上位水準であるとのこと。) 職員の方の実際の経験をまじえながら、ブランドを確立することの観光面・産業面・所得面でのメリット、確立するまでの難しさとおもしろさを話していただきました。

○ 学生の取組

 学生はブランドから一度目を離して、観光客数や交易量の決定要因を、「重力モデル」とよばれる標準的経済理論を使って考察しました。データも利用して、関東近郊など経済規模の大きい都市に近い地域の有利さと、沖縄にみられるような距離的不利を補って余りある魅力の重要さを明らかにしていました。 このモデルの利点は、今後の展望を明示できるところにあります。アジア地域の経済規模が拡大することを考えると、航空機利用によりこの地域との時間的距離を縮めることが重要であり、またこの地域にターゲットをしぼったブランド展開が有効であるといえるでしょう。政策担当者とこのようなやり取りをしました。 地域ブランドについての議論の中で、学生から、北海道ブランドには「何か一貫したストーリー」がある、という問題提起が出てきました。青森ブランドはそれがなく、バラバラの印象だ、というのです。前回に続いて弘大生らしい指摘で、ぜひ今後検証してください。

(学生発表スライドから)

第4テーマ(弘前市の「総合雪対策事業」について:第12回~第14回)

このテーマでは、弘前市の「スマートシティ推進室」担当職員を招きました。

○ 基調講義

 弘前市の雪対策を、人口減少や気候変動と関連づけて説明いただきました。(1月です。講義中も、どんどん雪が積もっていました。) そして弘前市が目指す「雪国型コンパクトシティ創造事業」を解説いただきました。発電と融雪を一体にした「コジェネ」を中心とする壮大なプランです。

(政策担当者の解説スライドから)

○ 学生の取組

 学生は長期ビジョンではなく、「つなぎ」の中期ビジョンを考察しました。雪対策のコストと利益を検討し、雪対策を広げるための条件を考えました。雪活用の方法を探り、雪対策を広げやすい状況をつくり出そうというアイデアです。

(学生発表スライドから)

 わるくない提案とは思いますが、弘前市担当者のスケールの大きな提案には、やはりスケールの大きな提案でこたえてほしかったという思いが残ります。プロの専門家に気おくれしたのでしょうか。(今回の担当者は弘大出身者で、先輩なのですが。) この経験も活かして、次はもっと大きな提案を模索してください。

自省会(第15回)

 半年間の授業を振り返りました。専門職員を前にした発表は準備が大変だったと思いますが、どの方も、「今の学生はすごい」と一様に感心していたことを披露しました。
 ここでは、学生の自省のやりとりから、一つだけ紹介します。
A:「自分はいつも途中で授業をサボってしまい、単位もあまり取れないのですが、この授業は、グループの皆と一緒に最後までやり遂げられました。」
B:「でも、大変な授業なのに、なんでこの授業は挫折しなかったの?」
A:「あまりに大変で、大変すぎて、自分だけサボるわけにいかなかったんです。」
授業の雰囲気は以上の通りです。次年度も、地域に対する見方が広がり、自治体政策に対する理解が深まる授業を目指して、周辺自治体の協力を得ながら授業を進めてゆきたいと思います。

補足:本授業方法に関心のある他大学・高校等の先生方へ
 この講義は、青森県、弘前市の協力により成り立っています。自校の学生の能力を高めることはもちろんですが、ここでの授業方法を周囲に広めることも、私たちの責務と考えています。
この講義の基本構成は次の通りです。先生方への参考に掲載します。

関心のある方には授業を公開し、ご照会にお応えします。まだまだ課題も多いものの、アクティブラーニング、地域志向科目における「一つの形」を示していると考えています。

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