卒業生インタビューシリーズ第3回(弁護士 小林裕和さん、秋本佳宏さん、小泉直永さん)

卒業生インタビューシリーズ 創造者クリエイターの翼に

第3回:卒業生座談会
 弁護士 小林裕和さん
 弁護士 秋本佳宏さん
 弁護士 小泉直永さん
 弘前大学人文学部卒業

——第3回目は、現在、若手・中堅の弁護士として法曹分野で活動されている3名の卒業生にお話を伺います。


プロフィール
(こばやし・ひろかず さん)
1986年、北海道生まれ。本学で行われた新司法試験制度のシンポジウムに偶然参加し、法曹の道を志す。2009年に弘前大学人文学部を卒業し、2012年に司法試験に合格して弁護士資格を得る。現在弁護士9年目、札幌市の下川原法律事務所所属。
(あきもと・よしひろ さん)
1989年、神奈川県生まれ。学生時代はソフトボールに熱中する。2013年に弘前大学人文学部を卒業し、2016年に司法試験に合格して弁護士資格を得る。現在弁護士5年目、静岡県下田市の下田ひまわり基金法律事務所所属。
(こいずみ・なおひさ さん)
1994年、北海道生まれ。大学2年生ごろから司法試験を想定した勉強をはじめる。2016年に弘前大学人文学部を卒業し、2019年に司法試験に合格して弁護士資格を得る。現在弁護士2年目、札幌市の弁護士法人リブラ共同法律事務所所属。

それぞれの大学生時代
——学生時代は、どんな大学生でしたか。

【小林さん】 学生時代に法曹を目指していましたかと言われると、全く目指しておりませんでした。この道に入ったことについては、大学3年生になって就職活動をみんなが始めているころに、自分は一体どの業界に行きたいのか全く迷ってしまって、会社に入って働くという自分が想像できなかった。そこに、当時注目を集めていた新司法試験制度の法科大学院に関連した学内のシンポジウムに偶然出くわしました。そこで、あ、法科大学院という制度があって、こういう道もあるんだなと、これはちょっと時間稼ぎのために行ってみるのもアリかなと思って、指導の先生に、法科大学院はどういうふうに入るんですかと言ったのが始まりでした。

卒業生インタビューシリーズ 3回目
収録風景:小林弁護士

【秋本さん】 私も「法曹一直線」というわけではなく、ある程度目指していたところではあったんですけれども、ソフトボールの部活をやっておりましたので、そちらをまず最優先と考えていました。5限、6限は部活に影響するので基本的には取らない、ゼミもジャージで行っていました。(笑)先生には法曹を目指していると話していたかと思うんですけれども、言っていることとやっていることが、全くかみ合っていなくて。先生から指導を受けているうちに、4年生ぐらいから本気に目指そうということになって、勉強も始めてという感じだったと思います。

卒業生インタビューシリーズ 3回目
収録風景:秋本弁護士

【小泉さん】 大学では、先生がやっているプロジェクトの関係で、裁判員制度に関するインタビュー調査・研究をさせてもらったんですけど、そこで話を聞くということの大切さを学ばせてもらったかなと思っています。そのプロジェクトでは、実際に裁判員経験者の方にお話を伺いました。現在の弁護士の仕事でも、相談者や依頼者の話をよく聞いて、何を言いたいんだろう、何で困っているんだろうというところからはじまるので、学部のときのプロジェクトに関係して経験させてもらったかなと思っています。

——このプロジェクトは今でも継続しているんですけど、最初にインタビューに行っていたのが小泉さん。ただ、もともとそんなにああいう場が好きなタイプじゃないですよね。

【小泉さん】 単純に裁判員裁判に興味があって、裁判員になった人ってどういう人なのかなとか、どういう感想を持っているのかなというところに興味がありました。それと先生の無言の圧力みたいなところも、多少はあったのかなと。(笑)

卒業生インタビューシリーズ 3回目
収録風景:小泉弁護士

司法試験に向けて
——ロースクールに入ってからの勉強についてお伺いします。3年間の勉強生活は大変だったと思うのですが、その間のモチベーションの維持の仕方などは、いかがでしょうか。

【小林さん】 私は未修コース(3年コース)で法科大学院に入学しました。まず1年目ですけれども、大学のときに授業は受けましたが、網羅的な勉強はしたことがなかったものですから、ほぼ初心者という状況でした。なので、まず理解するところから一苦労でした。基本書やら予備校本やらを横断的にかなり読んで、その状態で授業に臨んで、予習してきたことと大体合っていれば自分の理解は間違ってはいなかった、そうこうするうちに前期後期試験を迎えて、7科目、場合によってはもっと。そんな勉強生活でした。1年目は情報としてインプットできたけれども、整理はまだついていなかったと思います。
 そして、2年目になって演習科目ということで、重要な判例とか裁判例を勉強するときに、自分が1年目に頭に詰め込んだのは、なるほど、こういうふうに使うものだったのだというふうに整理がされていくようになります。2年生である程度整理されて、3年生でそれを使えるように昇華する。今度は答案に書いたらどうなるのかとか、アウトプットしたらどうなるのかということを頑張っていくということで、3年間は3段階に分かれるのかなと思います。
 私の行ったロースクールは人数が少なかったこともあって、あと、合格者もそんなに多いわけじゃないです。そのときに、同学年よりも、一回落ちてしまった先輩方のグループに入れてもらって、そこで鍛え上げていただきました。先輩方と一緒になって勉強会を頑張って、モチベーションを維持していたロースクール生活でした。

卒業生インタビューシリーズ 3回目
収録風景:小林弁護士

【小泉さん】  基本的には、1年生とか2年生については、授業についていくので精一杯で、予習、復習だけしていました。1年生のときに民法の先生に言われたんですけど、1年目は基礎・基本をやって、2年目は応用をやるんだと。木でいうところの1年目は幹の部分をやって、2年目は枝葉の部分をやるんです、司法試験は基本、その幹の部分しか出ない。基礎・基本しか出ないので、その他判例は覚えるべきところはあるけど、基礎・基本が一番大事なんですということを聞きました。
 そこで、各科目1冊ずつの自分の手書きノートをまとめて、1年目の基礎・基本を書き、2年目にちょこちょこと加筆していくみたいな形で、ある意味、情報の一元化をそこでやっていました。司法試験の直前もそのノートだけを見て、基本、対応していたという形になります。合う合わないがあると思うので、これが効果的な勉強法だったのかはちょっと分からないですけれども。

——1年生の段階で、基本が大事だと言われても、頭に司法試験がちらついたりすると、ちょっと不安になったりすることもありませんか。

【小泉さん】 ある意味、何も知らないというのが強かったのかなと思います。1年目は司法試験が何なのかも本当に分からなくて、周りも、法学部出身とはいっても未修者なので、大してレベルは変わらないなというところがありました。あと、実は基礎・基本が何なのかも分からない状況で、先生から言われることが基礎と基本なんだというのを信じてやっていたという感じですね。(笑)

卒業生インタビューシリーズ 3回目
収録風景:小泉弁護士

弁護士の仕事の魅力
——この仕事のおもしろさや魅力は、どのようなものでしょう。

【秋本さん】 私は、駆け引きみたいなのがあまり得意じゃないためか、そのおもしろさみたいなのはあまり感じてなくて、事件が解決できたことをとても喜びに感じるというか、むしろ依頼者の人が「先生に頼んでよかったです」と言ってもらえると、すごくよかったなと思います。
 特に感じるのは、民事より刑事事件でした。特に身柄拘束のあたりですけれども、勾留されてしまうと勾留の取り消しや準抗告、保釈請求が認められないと身体拘束は継続し、社会生活を制限されることになります。これはとても苦しく、仕事もできなくなる、家族に会えなくなります。
 思い出深いのは、娘さんと二人で住んでいるお父さんの事例だったんですけど、結構どうしようもない人ではあって、最初、防犯カメラがあるのに否認もしていました。そこで、結構長時間、娘さんがいるのにこのまま出なくてどうするんだという話をしました。説得して認める方向に向かわせて、反省もさせて、娘さんもいることも含めて準抗告の申立書にいっぱい書いたら、裁判所が準抗告を認容してくれまして、娘さんと離れることもなく生活ができたというのが一番印象深い事件です。
 今、どうしていますかね。元気に暮らしているんじゃないかとは思うんですけど。地方では新聞でこの人逮捕されましたとすぐ出ます。その人の名前は載ってこないので、今のところ順調に生活できていると思います。

卒業生インタビューシリーズ 3回目
収録風景:秋本弁護士

【小林さん】 民事事件で、ちょっと専門的になるんですけど、ある会社とある会社が特許の許諾契約を結んでいました。結局、その特許は全然役に立たない特許だったんです。実はだまされてたんですね。その会社の弁護をしました。でも、契約書は結構頑張ってつくられていて、用意したのは特許の提供側だったのですけれども、「いかなることがあってもこのお金は返金しない」という特約が結ばれていたんです。
 普通、特許の契約を結んだけれども役に立たなかったとか、思わしい効果が得られなかったからという理由で返金してもらうのはなかなか難しい。公開されている特許なんだから、自分で確かめたら分かるでしょというところです。僕はその事件で錯誤無効という、そもそも思っていたのと違ったわけだから、この契約も無効だよという結構難度の高い主張で行ったんですよね。相手方の代理人の弁護士も東京で大手にいたことがある先生だったので、なかなかに専門的な裁判例などを引っ張られて、やっぱ詳しいんだなと思ったんですけれども、最後、開けたら勝ったという事例。錯誤無効が認められるんだというところは、民事の中で一番思い出に残っている事件です。

——何か、秘策があったのですか。

【小林さん】 あまり中身を詳しく言えないですけれども、相手方の本人が、結構、メールとか支離滅裂なことを言ってたりするんですよね。そこをすくっていくと、ほら、この人、嘘ついてるじゃないと、明らかにできた事例でした。

卒業生インタビューシリーズ 3回目
収録風景:小林弁護士

職業人として大切にしていること
——弁護士として大事にしていることがありましたら、お願いします。

【秋本さん】 人の話を聞くのは結構大事にしています。これは裁判やっても絶対無理だよという相談も結構来るんですけど、ずっと話を何時間も聞いてあげていると、それだけで納得して帰ってもらったりもします。
 そこまで聞かなくてもいいのにと思っても、そこまで聞いた上で、訴状だったり準備書面をつくると、やっぱり質が変わってくるなというのはとても感じています。もともと人の話を聞くのが苦じゃないというのもありますけど。
 あと、地方特有というのもあるんですけど、あんまりやり過ぎないこと。東京と違って、裁判の後も関係性が続くことも多いのです。たとえるなら、裁判なら判決は100対0かなというケースでも、和解で80対20で納得してもらったりとか、それが弁護士として正しいのかよく分からない部分もあるんですけど、ただ、後々の関係性とかを考えると、100対0にならないほうがいいだろうなというケースは結構あります。そういうところでは、事件の全体像をみながら具体的な妥当性で仕事をしている部分があります。

卒業生インタビューシリーズ 3回目
収録風景:秋本弁護士

【小泉さん】 私の事務所は離婚事件が多くて。離婚事件特有というか、本当に感情論になるんですよね。これまでの経緯みたいなところから始まるので。当事者同士はすごく熱くなりやすい。そこはプロとして冷静に、ここは認められるかもしれないけど、これは難しいよというような話をしつつ、しっかり整理をしていくというのは注意しているかなと思います。

——仕事とはいえ、つらくなったりしないんでしょうか。事案と自分の生活との切り離しというか、感情とか。

【小泉さん】 そうですね、そこは意外とうまくできているかなと思っていて、仕事を持ち帰ることはたまにありますけど、事務所を出たらあまり考えないように意識的にやっています。たまに本当に感情移入しちゃう事案もありますけど、それはそれというふうに思っておかないと、ほかの事件もどんどんできなくなっていってしまうので、頑張っているところです。

卒業生インタビューシリーズ 3回目
収録風景:小泉弁護士

これからの「夢」と後輩へのメッセージ
——最後にお伺いします。自身のこれからの「夢」、それから後輩へのメッセージをお願いします。

【小林さん】 弁護士9年目を迎えましたけれども、まだどこか仕事にまだ慣れていないのかなと。出会う事件はすべて初めての事件で、同じ事件はないからなんです。ですので、もっと経験を積んで、どんな事件が来ても怖くないぞとなるのは、かなり年をとってからになるかもしれませんけれども、弁護士という仕事をよりできるようになりたいと思います。もっといろんな経験が必要だなと。修業がしたいです。
 これから進路を決められる学生の皆さん、やはりなってみると、この仕事はやりがいがあるし、やっている同期たち、もしくは先輩方を見ても、みんな楽しんで続けています。もちろんストレスはかかる仕事ではありますけれども、やっていて胸を張れる仕事でありますので、興味があったら考えてみていただきたいなと思います。弘前大学で自分はずっと遊んでいたけれども、頑張ったら受かったので、決して実現できない目標ではありません。

【秋本さん】 大層な夢は全然ないんですけど、本当に今も不安で、初めての事件でよく分からないというのがあるので、とりあえず一件一件しっかり取り組んで、経験を増やしていきたい。それで依頼者に感謝されればと思います。ただ、自信を持って言える何かが欲しいなと思って、専門分野を一つつくりたいなとは思っていて、結構、スポーツだったり、法教育にも結構最近興味が出てきているので、そのあたりで一つ、この分野は何でも来いみたいな分野をつくりたいなと思っています。
 司法試験は特別な才能が要らない試験かなと思っていて、コツコツやれば大丈夫ですし、本当に目指すなら、目指せば何とかなる試験と思います。あきらめずに目指してもらいたいです。ストレスもすごくかかる仕事ではあるんですけれども、その分、解決できたときの解放感というか、よっしゃあみたいな気分を味わえる仕事です。楽しいですし、やりがいがあると感じています。

【小泉さん】 私の場合は、事務所の特徴柄、離婚と相続がほとんどという事務所にいるので、まずは離婚と相続を含めてですけれども、そこを専門的にやって、そこに自信をつけたいなと思っています。離婚だったら離婚については、基本的にどんな事件が来ても対応できるように、自信を持てるように、何年かかるか分からないですけれども、そういった自信をつけられるようになりたいなと思っています。
 誰でも受かるチャンスがある試験になってきているのかなと感じていて、コツコツ勉強できる人であれば十分に受かる可能性もあると思います。ちょっとでも興味がある場合は目指してみる、一つの選択肢に入れるといったことがといいのかなと。
 今日の座談会についても、本当に夢って何なのだろうと考えさせられました。小さい頃から弁護士になることは夢だったので、そこで叶ってしまっていて、実際、弁護士になった後、日々の業務に追われて将来のことを考える余裕はほとんどなかったので、今、いい機会をもらえたなと思っています。先輩にあたるお二方の夢も聞かせていただき、勉強になりました。

——私たちは法科大学院に進学する学生さんのサポートをやってきて、これが私たちの夢の実現の一つなのかもしれないなと思っています。今後も皆さんがつながることができる接点をつくり続けたいと考えています。
 すでに司法修習に入っている卒業生もいますし、ロースクールを終えてこれから司法試験を受けようとしている卒業生もいます。4年生でロースクールを考えている学生もいて、私たちも研究と教育で頑張っていきたいと思いますので、ぜひまた協力してください。
 今日はありがとうございました。

【全員】 ありがとうございました。

(収録は2022年4月12日、オンラインにて)

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